10月7日(土)放送
なぜ医師は立ち去るのか 〜地域医療・崩壊の序曲〜
写真:今年4月から常勤医が一人もいなくなった舞鶴市民病院。ロビーには患者の姿が見られない

5月に放送したETV特集「ある地域医療の“挫折”〜北海道せたな町〜」は、地域社会が抱える不安や、医療と行政との関係を浮き彫りにして大きな共感を呼んだ。とりわけ医療従事者から数多くの切実な声が寄せられた。せたな町同様、地域医療に意欲的に取り組んできた医師が地元の行政と衝突、まちを去ることになる例が全国各地で相次いでいるというのである。医療関係者が情報交換をするブログやホームページなどでも議論が巻き起こり、全国的な広がりを持つ「地域医療崩壊」の現状が報告されている。こうした医師の地域病院からの大量離脱の背景には、医療現場と行政、そして住民のあいだの意識のギャップがある。 行政は、医療を病院の規模や医師、看護師の数などハードの問題として発想しがちである。国の三位一体改革などの影響で財政危機に立たされた地方自治体は行革(合併もその一環)を推進、それが充分な知識がないまま地域医療の現場にメスを入れることにつながり医療現場の反発を招いている。一方で、深夜でも気楽に診察を受けようとする住民の「コンビニ感覚」の問題も指摘されている。こうした無理解が、熱意に支えられてきた地域医療の土台を揺さぶり、次々に病院スタッフが辞めていく現象を引き起こしている。医療問題に詳しい城西大学助教授の伊関友伸さんは「このままでは日本の地域医療は完全に崩壊してしまう」と警告する。

番組は、残されたただ一人の医師と住民が今後の医療の進め方をめぐって試行錯誤する北海道せたな町瀬棚診療所のその後の様子を伝えるとともに、同じように医師の退職に揺れる京都府舞鶴市、北海道江別市などを伊関さんが訪ね、いま深化しつつある地域医療の危機を浮かび上がらせる。

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